
(初出:25/09/06)
2025年8月29日(金)『吉乃 1st LIVE “逆転劇”』
@Zepp Haneda (TOKYO)
【ライブレポ】
吉乃、オリジナル楽曲をLIVE初披露!「1st LIVE “逆転劇”」で魅せた覚悟と気迫で観客を魅了!
2024年1月に開催された“カサブランカ”、そして夏に全国を巡った“爪痕”ツアー。
そのどちらも「COVER LIVE」の言葉を冠し、吉乃は“歌ってみた”という原点から、自身の解釈で楽曲を表現してきた。その姿は、まるで一曲一曲に命を吹き込むようであり、観客の記憶にも深く刻まれていった。
だからこそ、今回の公演“逆転劇”に「1st LIVE」と名付けられた意味は、並々ならぬものだった。
それは、カバーではなく、自身のオリジナル楽曲で構成された、吉乃にとって初めての“自己表現”となる舞台。
“歌い手”でありつつも、さらに“アーティスト”へと進化し、自らの意志と世界観をもってステージに立つ――。
その覚悟と情熱に満ちた一歩が、どれだけ大きな挑戦であり、どれだけ鮮烈な瞬間だったのか。
観客は、その変化を肌で感じ、驚き、そして酔いしれた。
そこには、これまでの吉乃とは違う新たなエネルギーと揺るぎない意思を感じたからだろう。
この1日が、確かに「1st LIVE」として、吉乃の歴史に刻まれたのである。
8月29日(金)、会場となったZepp Haneda(TOKYO)には、開場前から多くのファンが集まっていた。
この日は、吉乃が日頃から「大好き」と公言している“焼肉の日”。偶然にもその日にLIVEが重なったことが、彼女らしいユーモアとリンクして、発表当初から話題を呼んでいた。
1年ぶりの開催となったこのLIVEに、観客の期待は高まるばかり。開演直前には自然と「吉乃」コールが湧き上がり、会場はすでに熱気に包まれていた。オープニング映像が始まると、空気がさらに一変。観客のボルテージが上昇するなか、ステージを覆っていた幕がスッと下ろされ、ついに吉乃が登場――。
その瞬間、驚きと興奮が入り混じった大きな歓声が会場を揺らした。
これまでのLIVEでは会場中央の筒状セット内でパフォーマンスを行っていたが、今回はステージ前方に前後した短冊状の紗幕を用い、ステージ全体を使う吉乃が“解き放たれた”のである。事前に予告されていた「これまでと異なる、姿をより鮮明に感じられる舞台セット」「殻を破る瞬間もお見逃しなく」という言葉通り、まさにその“瞬間”が訪れた。
そして1曲目。幕開けを飾ったのは、2021年に発表された吉乃の初オリジナルソング「百倍返し」。
“逆転劇”という今回のLIVEタイトルを象徴するかのような一曲が、観客の心に火をつけた。客席には彼女のテーマカラーである紫のペンライトが無数に揺れ、ステージと客席の熱が重なっていく。

特に間奏部分では、吉乃の手振りに合わせて観客の歓声が巻き起こり、空間そのものが躍動し始める――そんな臨場感あふれるシーンから、LIVEは勢いよく走り出した。
続いて披露されたのは、昨年10月にリリースされたメジャーデビュー曲にして、アニメタイアップ曲としても注目を集めた2曲。「なに笑ろとんねん」では、衣装も巧みに活かしながら、艶やかで気品ある歌声で観客を魅了。続く「ODD NUMBER」では、ステップを交えたダンスとともに、力強いボーカルをぶつけるパフォーマンスを展開。会場の声援に呼応するように、吉乃の熱量も一層高まっていくのが感じられた。
4曲目は「転校生」。今年1月22日、自身の誕生日にリリースしたアルバム『笑止千万』収録の一曲である。ステージの左右を広く使い、バレエ経験を活かした繊細かつダイナミックな動きと、巧みに使い分ける声色で、楽曲の世界観を立体的に描き出す。まさに“表現者・吉乃”の真骨頂ともいえるステージだった。

後半のMCでも語っていたように、吉乃は自らのLIVEを「劇」と捉えている。
物語を紡ぐ主人公は吉乃、そしてその劇をともに進めていくのが観客――。
LIVEで初披露となる楽曲が多いにもかかわらず、ステージとフロアには確かな一体感が生まれていた。それはきっと、彼女の「歌声」と「ダンス」で描き出す“劇”に、観客が心から没入していた証だったのだろう。
そんな中、MCを挟んでから披露したのは、観客の想像を軽やかに飛び越えるような一曲、「ルカルカ★ナイトフィーバー」だった。
この楽曲は2009年にボカロP・samfreeによって発表され、その後、愛川こずえによる“踊ってみた”動画で一躍ネットに旋風を巻き起こした、カルチャーの象徴とも言える一曲。今回、吉乃が選んだのは、そんな“踊ってみた”の原点ともいえるダンスだった。
「歌ってみた」だけでなく、「踊ってみた」のカバーまでLIVEで表現するという、極めてレアな試み。吉乃のセンスと大胆さに、観客も驚きと歓喜が混じった大きな歓声で応えた。キュートで華やかな歌声は吉乃らしさが満ち、コピーという枠を超えた“リスペクト”がにじむダンスは、まるで愛川こずえ本人へのオマージュそのものだった。
続いて披露されたのは、2025年7月に配信リリースされたアニメ『気絶勇者と暗殺姫』オープニングテーマ曲「天伝バラバラ」。跳ねるフレーズに合わせて軽快なステップが刻まれ、可愛らしさとユーモアに加えて、芯の強さも垣間見えるパフォーマンスとなった。吉乃の持つセンスがストレートに反映されたステージに、手拍子と声援が重なり、会場の一体感がさらに高まっていく。

そのままの勢いで、ジャズの香り漂う2曲へ。2020年にボカロP・すりぃが投稿した「ビーバー」のカバーと、「サンドペーパー・ムーン」では、大人びたニュアンスを感じさせる歌声とステップが舞台を彩る。軽やかに踊る姿は、まるでミュージカルのワンシーンのようだった。
続く「エンドレス」では、4つ打ちのビートに乗せて鮮やかなリズムとしなやかなボーカルを響かせ、これまでと異なるクラブ的な色彩を加えた。
MCを挟んで披露されたのは、前進する意志を感じさせる「我が前へ倣え」。続く新曲「贄-nie-」は、先日発表されたアニメ『私を喰べたい、ひとでなし』のオープニング主題歌で、この日がフルサイズ初披露となった。しゃがみ込み、上半身をうねらせながら歌うなど、これまでにない身体表現で観客を引き込む。異世界に吸い込まれるような没入感と衝撃に、会場は静かに息を呑んだ。

次の2曲は、夏の終わりにふさわしいエモーショナルなナンバー。supercellの「君の知らない物語」では、自由にステージを歩きながら丁寧に歌い、間奏では優雅なダンスでその世界観を深める。そして「サマータイムレコード」では、マイクスタンドを据え、ビブラートやファルセットを織り交ぜた伸びやかな歌声を響かせ、そっと観客の胸に染み渡った。

ここで、吉乃から観客への心温まるサプライズが用意されていた。
「今日お誕生日の人がいたら、みんなでお祝いしませんか?」という吉乃の呼びかけに、8月29日生まれの観客がなんと4人。会場全体でハッピーバースデーを歌うという、LIVEならではの愛と温もりに満ちたひとときが広がった。
この日、この場所にいたからこそ体験できた特別な瞬間に、会場中が優しい空気に包まれていった。
そして、本編最後を飾ったのは「BAD MAD」。
サビで吉乃がマイクを観客に向けると、観客席から一斉に歌声が返ってくる。
手を振る仕草にも応えるように、客席も左右に大きく手を振る。
まさに一体感の極み。その熱を残したまま、ステージはいったん幕を閉じた――

だが、ここで終わるはずもなく、すぐさま会場には「吉乃」コールが再び響き渡る。
高まるアンコールの熱気が最高潮に達したその時、ステージ上の紗幕にふたりのシルエットが浮かび上がる。
吉乃、そしてその隣に立つのは……スペシャルゲスト、歌い手・弱酸性だ。
披露されたのは、2023年11月29日”いい肉の日”にふたりで“歌ってみた”動画を投稿し話題を呼んだ「お願いマッスル」。思わぬサプライズに会場は一気に歓喜と笑顔に包まれた。2人のコミカルかつキュートでおちゃめなダンスと、息の合った掛け合いが繰り広げられ、笑顔の連鎖がステージから会場全体に駆け抜ける。“楽しい”が溢れ出すようなステージに、客席も一緒になって盛り上がり、このLIVEの幸福感をさらに倍増させるひとときとなった。

続くロックナンバー「渇き」では、吉乃の熱量がさらに加速。
低音から高音まで鋭く突き刺すようなボーカルが響き渡り、会場の温度が一気に上昇する。
解き放たれるような立ち姿と声に、観客は圧倒された。
そして一転し、この日唯一のバラード「ババロア」では、会場の空気が一変。
震える声、叫び、言葉にならない想い――そのすべてを、歌声と全身で表現。
涙を浮かべる観客も見られるほど、心の奥深くに響く極限のパフォーマンスだった。
そして迎えた最後のMC。
前回のライブから一年という月日が経っても、変わらず温かく迎えてくれるファンへの感謝。
「私とみなさんの人生が交わること、それがとても嬉しい」と語る彼女の言葉には、言葉以上の思いが込められていた。「またみんなに会える活動を続けたい」という決意と、今日ここに集まってくれたすべての人に向けた深く丁寧な感謝の言葉に、客席からは割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。
そして最後に選ばれた楽曲は「KAMASE!!」。
そのタイトル通り、最後まで“かまして”くれるに違いないと誰もが期待する中、吉乃はその全身全霊をステージにぶつけた。立ち姿、身振り、そしてシャウトが響く圧倒的な歌声。まさにロック・ディーヴァのような存在感で、観客にコール&レスポンスを求めると、フロアからはこの日最大級の大歓声が返ってくる。
その声が巨大な渦のように会場を包み込み、会場全体のボルテージは一体となって最高潮へと突き抜けていく。まさに圧巻のフィナーレであった。
このLIVEは、単なる“1st LIVE”にとどまらない。
オリジナル楽曲によって、明確に進化した吉乃の姿があった。
MCで「自分の常識、認識を変え、人生を変えるくらい覚悟を決めなきゃいけない。その思いで“逆転劇”と名付けました」そう語っていたように、このLIVEには“逆転”では足りない、“大逆転劇”とも呼べるような覚悟と気迫、そして変化があった。
吉乃という表現者の新章が、ここからはじまっていく。
そして、いずれ訪れる“次の劇”に向けて、ファンの期待もまた、これまで以上に高まっていくに違いない。
文:山田規裕
写真:中原幸

※ライブキービジュアル:獅冬ろう
※ライブロゴ:yoshimura feat.yoshimura
【セットリスト】
- 百倍返し
- なに笑ろとんねん
- ODD NUMBER
- 転校性
- ルカルカ★ナイトフィーバー [オリジナル:samfree]
- 天伝バラバラ
- ビーバー [オリジナル:すりぃ]
- サンドペーパー・ムーン
- エンドレス
- 我が前へ倣え
- 贄-nie- [新曲]
- 君の知らない物語 [オリジナル:supercell]
- サマータイムレコード [オリジナル:じん]
- BAD MAD
アンコール)
- お願いマッスル [ゲスト:弱酸性、オリジナル:紗倉ひびき(ファイルーズあい)&街雄鳴造(石川界人)]
- 渇き
- ババロア
- KAMASE!!
■リリース情報:
吉乃
デジタルシングル
「天伝バラバラ」
2025年7月11日(金)配信リリース
※TVアニメ『気絶勇者と暗殺姫』オープニングテーマ
▽配信
https://lnk.to/TendenBarabara
☆TVアニメ『気絶勇者と暗殺姫』メインPV】
■吉乃 プロフィール:
歌い手。2019年2月より歌ってみたの投稿を開始。活動開始当初からYouTubeチャンネル上で披露しているカバー動画が好評を博し、登録者数は 現在17万人を超える。
2024年1月に初となるライブ「吉乃 1st COVER LIVE“カサブランカ”」を恵比寿ガーデンホールにて開催。チケット即完につき、急遽追加公演を加えた2daysにて開催し、両日チケット即完。同ライブを収録したLive Blu-rayを9月11日にリリース。
そして2回目のライブ開催にして初のツアーとなる「吉乃 COVER LIVE TOUR 2024“爪痕”」を名古屋・福岡・大阪・東京各都市のZeppにて開催。
2024年10月スタートのTVアニメ「ひとりぼっちの異世界攻略」OP主題歌とTVアニメ「来世は他人がいい」ED主題歌を務め、ポニーキャニオンよりメジャーデビュー。
2025年1月にMajor1st Album『笑止千万』をリリースした。8月29日(金)にZepp Hanedaにて、オリジナル楽曲を引っさげ、「吉乃 1st LIVE“逆転劇”」を開催。
▽オフィシャルX:
https://x.com/yoshino_msc
▽オフィシャルYouTube ch:
https://www.youtube.com/@yoshino_niku
▽オフィシャルTikTok:
https://www.tiktok.com/@gyudon_uma