(初出:23/08/29)
毎年夏の恒例行事となった乃木坂46の全国ツアー「真夏の全国ツアー2023」最終公演が、8月28日(月)に明治神宮野球場で行われた。1~2期生がすべて卒業し、3~5期生のみの新体制で初めて臨んだ今回のツアーは、7月1日の北海道を皮切りに、大阪、広島、沖縄、愛知、宮城、東京の全国7ヶ所で計16公演を開催。中でも“聖地”神宮での東京公演は初の4日連続で行われ、東京のみで計15万4000人、16公演の総動員数は25万人にも及んだ。また、東京4公演はインターネットでの生配信も実施され、会場に足を運べなかった多くのファンもモニターの前から見守ることができた。
例年は雨に見舞われることが多かったものの、今年は4日とも晴天に恵まれた神宮でのライブ。最終日の影ナレは賀喜遥香&田村真佑が務めたが、怪我で東京公演を休演した川﨑桜がサプライズ参加し、「神宮の風を少しでも感じられてうれしいです」と涙交じりに挨拶した。その後、ライブは33rdシングル「おひとりさま天国」でセンターを務める5期生・井上和の「神宮―っ! 最終日、盛り上がっていくぞーっ!」の第一声から、「裸足でSummer」にてスタート。ステージ左右から姿を現した2台の巨大トロッコに乗ったメンバーたちは、会場中を回遊しながら満員の客席に向けて笑顔を振り撒く。以降も「ジコチューで行こう!」を筆頭に人気の“夏曲”が連発され、「好きというのはロックだぜ!」では賀喜の「皆さん、ツアーラスト盛り上がる準備できてますか? タオル回していくぞーっ!」を合図に、メンバーと観客が一丸となってタオルを振り回す一幕も。また、山下美月による煽りも板に付いた「ガールズルール」では、4年ぶりに実現した“声出しOK”の神宮公演を満喫するように客席から盛大なコールが湧き起こり、ライブ序盤からクライマックスのような盛り上がりを見せた。
最初のMCではキャプテンの梅澤美波を中心に、メンバーがこの日のライブへの意気込みを口にしていく。遠藤さくらが「ツアーの集大成なので、みんなで最後まで支え合っていきたいと思います」、金川紗耶が「私も応援してもらえて頑張れているので、このあとも1曲1曲感謝を伝えながら披露していけたらと思います」と頼もしい言葉が述べる一方、与田祐希は「ジコチューで行こう!」の間奏で遠藤から頬にキスしてもらえたことを報告し、「これでパワーがめちゃめちゃ湧いてきているので、どんどんテンションを上げて今日も頑張りたいと思います!」と笑みを浮かべた。
続くブロックでは、期を超えた組み合わせによるユニット曲を用意。日替わりで異なるメンバー、選曲で披露されたユニットパート、この日は「意外BREAK」「Am I Loving?「自惚れビーチ」の3曲が選ばれ、オリジナルメンバーのそれとは異なる個性が光る、フレッシュなパフォーマンスが展開された。その後、「空扉」からは再びトロッコやフロートを使い、メンバーが会場中を移動しながらオーディエンスのもとへと出向いていく。また、「君に叱られた」「僕は僕を好きになる」「夜明けまで強がらなくてもいい」といったヒットシングルが立て続けに披露され、観客のボルテージが上がったところで33rdシングルのアンダーメンバーがステージに登場。松尾美佑をセンターに据えた「踏んでしまった」では、楽曲の持つ疾走感と相まってメンバーのパフォーマンスも力強さを増していく。さらに、「錆びたコンパス」では会場中が黄色いペンライトで染め上げられ、会場の一体感が高まっていった。
ライブ中盤では久保史緒里や向井葉月、金川、黒見明香、柴田柚菜を中心にプロ野球12球団のユニフォームを着用したメンバーたちが「Never say never」を堂々と歌唱。また、続くバラードアレンジが施された「シンクロニシティ」では久保や賀喜などがソロを取りながら、メンバー全員でアカペラを交えて繊細な歌声を響かせていく。そして、井上からの提案で会場中のペンライトが一斉に消されたあと、「皆さんにとって大切な人のことを思い浮かべながら聴いてください」のメッセージとともに、最新シングル収録曲「誰かの肩」が感情をたっぷり込めて歌い紡がれていった。センターステージに灯された炎の明かりだけで歌唱するこの感動的かつ幻想的な演出は、野外ライブならではの醍醐味と言えるだろう。
梅澤、山下、与田による和やかなトークを挟み、ライブ後半戦では各期の原点的な楽曲がパフォーマンスされる。まずは5期生が「絶望の一秒前」で再び会場の温度を高めると、続く4期生は「4番目の光」でその勢いを引き継ぎ、最後は3期生が「三番目の風」で客席の熱気を沸点にまで上昇させてみせた。その後、梅澤が「乃木坂の温度感を受け継ぎ、手を取り合い、歴史のあるこの場所から新たな夢へ歩き出します」と高らかに宣言し、「設定温度」を3~5期生で歌いつないでいく。かつて1~3期生によって神宮で歌われたこの曲が、時を経て新たな形に生まれ変わる。こうして乃木坂46の歴史は未来へとつながれていくのだと言わんばかりの演出に、客席からは惜しみない拍手が送られた。
メンバー個々の技量の高さが際立つダンストラックを経て、ライブもいよいよ佳境へ。遠藤の熱のこもったダンスが印象的な「ごめんねFingers crossed」、中西アルノが力強い歌声で観る者を惹きつける「Actually…」、与田&岩本蓮加のダブルセンターで華やかさを演出する「逃げ水」と、クールかつ幻想的な世界が展開されていく。さらに、5期生曲「バンドエイド剥がすような別れ方」、4期生曲「I see…」をメンバー全員で多幸感いっぱいにパフォーマンスすると、3期生曲「僕が手を叩く方へ」では会場中がハンドクラップでひとつになり最高潮を迎える。
本編最後の楽曲に入る前、井上が今回のツアーを振り返るコメントを述べていく。彼女は昨年のツアー後にある先輩から手紙をもらったこと、その中に「私は身近な人に尊敬してもらえるような人になることが目標。和ちゃんにもそんな人になってほしい」と記されていたことを告げると、「その言葉を今もすごく大切にしています」と口にする。そして、「私は正直まだこのツアーでできないことも多くて、素直になれなかったり、メンバーとかスタッフさんにたくさん迷惑をかけたなと思うんです。今までのツアーの期間を振り返ると、どれだけ自分に対して甘く評価してもあまり身近な人に尊敬してもらえるような人になれてなかったかなと思ってしまうんですけど……でも、私ももっと誰かの期待に応えられるような人になりたいし、もっと希望を与えられるような人になりたいなと思います。そして、この乃木坂46が誰かの頑張る理由になれるように、頑張ります」と前向きなコメントを寄せてから、「この中に“おひとりさま”はいるかーっ? おひとりさまも、そうじゃない人も、この曲で盛り上がっていきましょう!」と叫び、ラストナンバー「おひとりさま天国」へ突入。祝祭感の強いEDMサウンドに乗せて、井上を中心とするメンバーたちは満面の笑みでこの曲を届けると、クライマックスでは神宮上空に460発もの花火が盛大に打ち上げられ、夜空が華やかに彩られたところでライブ本編は幕を下ろした。
アンコールではスタンド席通路に、フロートに乗ったメンバーも登場し、「夏のFree&Easy」「ダンケシェーン」「僕だけの光」といった楽曲で会場の熱気も再上昇。その後、山下が「今回のツアーで改めて乃木坂46が大好きだなと思えて。ここに立てていない子もいるんですけど、全員で乃木坂46。10年後も神宮に立てているように、皆さんと一緒に歴史を紡いていきたいです」と思いを伝え、現編成での“はじまりの1曲”である「人は夢を二度見る」で会場を感動的な空気で包み込む。さらにこの日は、締めくくりの1曲として「乃木坂の詩」を最後に用意。会場一面が乃木坂カラーである紫一色に染まる中、約3時間におよぶツアー最終公演を鮮やかに締め括った。
オリジネーターである1、2期生が全員卒業し、グループに憧れて加入したメンバーたちで構成された現在の乃木坂46。キャプテンの梅澤はステージを去る前、「この4日間を乗り越えることが、私たちにとって大きな試練でした」と口にしつつ、その試練を見事に乗り越えたことで「私たちが乃木坂46です!」と堂々に宣言してみせた。先頭に立って見事に後輩たちを牽引してみせた3期生、大きな戦力として1人ひとりが強い個性を放つ4期生、もはや新人とは思えないほどの貫禄が備わった5期生……“新生”乃木坂46をさらなる高みへと導こうとするひたむきさは、このツアーを通じていろんな場面から感じ取れたはずだ。グループ史上初の神宮4DAYSという偉業を成し遂げたこのツアーを経て、乃木坂46はさらなる伝説を今後も作り上げていくことだろう。
(文/西廣智一)
セットリスト
- Overture
- 裸足でSummer
- ジコチューで行こう!
- 好きというのはロックだぜ!
- 太陽ノック
- ガールズルール
- 意外BREAK
- Am I Loving?
- 自惚れビーチ
- 空扉
- 他人のそら似
- 君に叱られた
- 僕は僕を好きになる
- 夜明けまで強がらなくてもいい
- 踏んでしまった
- 錆びたコンパス
- Hard to say
- Never say never
- シンクロニシティ
- 誰かの肩
- 絶望の一秒前
- 4番目の光
- 三番目の風
- 設定温度
- ごめんねFingers crossed
- Actually…
- 逃げ水
- バンドエイド剥がすような別れ方
- I see…
- 僕が手を叩く方へ
- おひとりさま天国
アンコール - 夏のFree&Easy
- ダンケシェーン
- 僕だけの光
- 人は夢を二度見る
- 乃木坂の詩