☆編集局注目記事はこちら☆

【ライブ】センチミリメンタル、全国ツアー閉幕「音楽を集合場所に、寄り添って歩いていきましょう」

Photo by 山川 哲矢

(初出:25/11/11)

センチミリメンタルの全国ツアー『センチミリメンタル LIVE TOUR 2025 “カフネ”』が、11月9日の神奈川・KT Zepp Yokohama公演で幕を閉じた。

今年8月に2ndアルバム『カフネ』をリリースしたセンチミリメンタル。同作を引っさげて行われた今回のツアーは、自身最大規模となる全国6都市での開催となった。各地のオーディエンスから受け取ったエネルギーを胸にツアーファイナルに辿り着いたセンチミリメンタルは、「集大成にできたら」という想いでライブに臨んだ。

開演前の会場には、ラブソングに限定されたBGMが流れている。観客は様々な楽曲に自身の想いを重ねながら、それぞれの日常を顧みていたことだろう。そして定刻になると、センチミリメンタルとバンドメンバーの村田隆嘉(Gt)、永見和也(Ba)、ナガシマタカト(Dr)が登場。ライブの幕開けを飾ったのは、アルバムの1曲目でもある「君想う夜」だ。センチミリメンタルの鍵盤弾き語りによって、情感豊かに届けられた。孤独な夜の内省と、〈君に会いたい〉という切実な願いを歌ったこの曲に、観客一人ひとりの感情が同期していく。

一転、センチミリメンタルは「ツキアカリ」の鋭い歌い出しで、場の空気を塗り替えた。ここからバンドが合流。これまでの5公演を経て、センチミリメンタルの歌も、バンドの演奏も絶好調。うねるようなグルーヴが観客の心を揺さぶり、フロアの高揚感を誘った。そんななか、〈ねぇ ほら 無理に繕って/笑うのはもうやめていいよ/その傷痕も暗闇も/僕に預けてみてよ〉というフレーズは、胸に手を当てて、観客に語りかけるように歌われた。センチミリメンタルの歌詞には〈ねぇ〉という呼びかけの言葉が多く登場する。それは曲中の”君”への呼びかけであり、自分自身の内なる声への問いかけでもある。ライブという場では、観客一人ひとりへの語りかけとして響く。そして楽曲のラストでは〈影に埋もれそうな月の明かりでも/光だ 光だ 光だ〉と力強く歌われた。どんなに小さな心の声も、存在を肯定されるべきだというメッセージだ。

Photo by 山川 哲矢

ツアーとアルバムのタイトルになった『カフネ』とは、ポルトガル語で“大切な人の髪にそっと指をとおすしぐさ”や“頭を撫でて眠りにつかせる穏やかな動作”を表す言葉だ。この温かなモチーフには、国内外でのライブを通じて、センチミリメンタルが「音楽は物理的な距離を超え、人に寄り添うことができる」と実感した経験が反映されている。そして今回のツアーではその想いをさらに深めるべく、SNSで各公演の来場者に「恋の話を聞かせてください」と呼びかけ、寄せられたエピソードを元にMCを展開。その上で「いろいろな愛が今日ここに渦巻いてますから。僕はすべて抱えて歌に乗せたいと思います」という決意を「スーパーウルトラ I LOVE YOU」に込めた。

観客とコミュニケーションを重ねながら、「これだけの人数がいると、それぞれの物語があるんだなと感じますね」と噛み締めたセンチミリメンタル。「光の中から伝えたいこと」を届けたあとのMCで紹介されたのは、ある来場者の恋の話と、そのメッセージに綴られていた「私の恋はセンチミリメンタルの音楽で始まって、温詞さんの声で終わりたい」という言葉だ。「胸が苦しくなっちゃって」と感想を語ったセンチミリメンタルは、「(自分の心の中では)別に終わらせなくてもいいんじゃないかな」と持論を展開。その後、「伝えられずにいる想いも、終わった恋も、胸に留めてずっと生きていく覚悟の歌」として「冬のはなし」を鳴らした。来場者の抱える想いに寄り添うように歌われたこの曲は、心の奔流を体現する演奏が生々しい余韻を残した。

Photo by 山川 哲矢

続いて、アルバムの中でもシリアスな楽曲「死んだっていい」「正義のすみか」が披露される。ハイトーンボイスが鮮烈な「正義のすみか」では、ライブならではのアレンジとしてアウトロが追加され、激しい感情が表現された。センチミリメンタルのライブは、本人も「感情のジェットコースター」と評するほど起伏に富んでいる。それは人の心に宿る多色の感情に真摯に向き合っている証だろう。彼が自身の心と向き合うように、あるいは自身と他者を結ぶものを慈しむように紡ぐ音楽は、時に聴き手の心を容赦なく抉るが、同時に救いとしても響いている。世界との摩擦で擦り切れた心の痛みも、人知れず閉じ込めた本当の声も、この音楽の鳴る場所ではなかったことにしなくていいと、身をもって伝えてくれているからだ。

ライブ後半に差し掛かると、アルバムのカラーを象徴するハートウォーミングな楽曲が登場。「ひとりごと」で観客の合唱とともに和やかなムードを生み出すと、「ゆう」ではアコースティックギターを基調とした素朴なサウンドに乗せて、〈生きていてくれてありがとう〉というフレーズが届けられた。それぞれの人生を歩み、紆余曲折を経て今日ここに集まった観客へ贈る感謝の言葉だ。

Photo by 山川 哲矢

満員のフロアを見渡しながら、この日何度も「嬉しい」「信じられない」と言葉を漏らしていたセンチミリメンタル。「出会ってくれてありがとうね」と観客に改めて伝えた本編ラストのMCでは、下積み時代、観客のいないライブハウスで歌った日々を振り返った。当時はたくさんの人に聞いてもらいたくて、“みんな”に向けて曲を書いていたが、結果が出なかった。しかしいつからか、「こんな人がいたな」「こんなことがあったな」「こんな話を聞いたな」と誰か一人に向けて曲を書くようになり、景色が変わり始めたという。

センチミリメンタルが歌うのは恋愛をテーマにした曲に限らない。しかし誰か一人への強い気持ちが表れているという意味では、全曲ラブソングとも言える。また、リスナーを分かりやすく勇気づけようとする言葉は並んでいない。しかし受け手一人ひとりの人生に想いを馳せ、肯定したいという意思とともに歌われた瞬間、その音楽はエールソングへと変わる。「これからもよかったら一緒に。ついてこいとは言わないので、横に立っていてくれたら」と彼らしい言葉でMCを締めくくったセンチミリメンタルは、「みんなに向けて、いや、あなたたち一人ひとりに向けて、伝わるように歌います」と、本編ラストに「愛の証明」を届けた。失恋してもなお〈君を愛してるよ〉と叫び続ける人の歌が、離れてもなお音楽で結ばれるセンチミリメンタルとリスナーの関係を表す歌に変わった瞬間だった。

Photo by 山川 哲矢

アンコールは、アルバム収録曲「ミラーソング」からスタート。この日は温詞の母もライブを観に来ており、MCでは「授業中にじっとしていられず、教室を出ていき、一人でピアノを弾いているような子どもだった」というエピソードや、音楽の道を歩む自分を寛容に見守ってくれた家族のことが語られた。また、活動規模が大きくなっていくなかでファンからよく言われる「遠くに行っちゃった」という言葉に対し、「遠くに行ってません。ずっとそばにいますので大丈夫です」と伝えた。

そして、ツアーファイナル当日に配信リリースされ、ライブ初披露された新曲「星が降る」。この曲から、センチミリメンタルの変わらない姿勢を感じ取った人も多かったのではないだろうか。ラグーナイルミネーション「光と水のカーニバル」CMソングに起用された「星が降る」は、曲調こそ王道のウインターバラードだが、内実はイルミネーションのようにきらびやかではない。大切な人と別れたあと、相手の幸せを願いながらも、自分の時が止まったままでいる人の気持ちが歌われている。みんなと同じように授業を受けられなかった子ども時代、そして現在も変わらず音楽の中に居場所を見出している姿――周囲が先に進むなか、自分だけが取り残されているような感覚は、センチミリメンタルに染みついているものなのかもしれない。しかし、だからこそ歌える歌がある。彼の言う「変わらない」は、「変われない」でもあり「変わりたくもない」でもあるのだろう。どんな感情を蔑ろにせず掬いとろうとする意思、取り残された誰かの傍らにいようとする姿勢が、この楽曲にも込められていた。

普段なかなか言えないことも音楽の中でなら歌える――この日はそんなMCもあったが、ライブのエンディングでは、センチミリメンタルが観客に照れながらも「僕のことを忘れないでほしいし、みんなのことも忘れずにいます。一緒に覚えていて、心の中で結ばれましょうよ。どうですか?」と呼びかけた。そして長く歌い続けている楽曲「結言」がこの日は特別に温かく響きわたった。「これからもセンチミリメンタルの音楽を集合場所にして、寄り添って歩いていきましょう」という約束とともに、ツアーは締めくくられた。

センチミリメンタルは、11月21日から自身初のワールドツアー『Centimillimental WORLD TOUR 2025-2026 “Cafune”』へ出発。上海・広州・ソウル・マニラ・チリ・メキシコシティを巡ったあと、日本での追加公演も開催される。来年3月10日、神奈川・KT Zepp Yokohamaで再び日本のファンと向き合うセンチミリメンタルが、どんな姿を見せてくれるのか楽しみだ。

<文:蜂須賀ちなみ>

☆セットリスト(11月9日(日) 神奈川・KT Zepp Yokohama)
01.君想う夜
02.ツキアカリ
03.星のあいだ
04.スーパーウルトラ I LOVE YOU
05.トワイライト・ナイト
06.光の中から伝えたいこと
07.冬のはなし
08.死んだっていい
09.正義のすみか
10.ひとりごと
11.ゆう
12.ストレイト
13.パレイド
14.キヅアト

  1. 僕らだけの主題歌
  2. 愛の証明
    [ENCORE]
    01.ミラーソング
    02.星が降る
    03.結言

■ライブ情報① ※閉幕
「センチミリメンタル LIVE TOUR 2025 “カフネ”」
<2025年>
9月14日(日) 愛知・ダイアモンドホール
9月27日(土) 宮城・Rensa
10月18日(土) 大阪・BIG CAT
10月25日(土) 広島・セカンドクラッチ
10月26日(日) 福岡・BEAT STATION
11月9日(日) 神奈川・KT Zepp Yokohama

■ツアー情報②
「Centimillimental WORLD TOUR 2025-2026 “Cafune”」
<2025年>
11月21日(金)上海・瓦肆 VAS ear
11月22日(土)広州・SD LIVEHOUSE
11月29日(土)マニラ・Paco Arena Events and Sports Center
12月6日(土)ソウル・musinsa garage
<2026年>
2月26日(木)チリ サンティアゴ・Teatro Cariola ※SOLD OUT
2月27日(金)チリ サンティアゴ・Teatro Cariola ※SOLD OUT
3月1日(日)メキシコシティ・La Maraka ※SOLD OUT
3月2日(月)メキシコシティ・La Maraka ※SOLD OUT
3月10日(火)横浜・KT Zepp Yokohama (追加公演)
▽公演情報:
https://www.cenmilli.com/live/

■リリース情報:
センチミリメンタル
最新作
「星が降る」
作詞・作曲:温詞 編曲:シライシ紗トリ・温詞
※ラグーナイルミネーション「光と水のカーニバル」CMソング
2025年11月9日(日)配信リリース
▽ダウンロード・ストリーミング:
https://erj.lnk.to/kqm6SL

■センチミリメンタル プロフィール:
作詞、作曲、編曲、歌唱、ピアノ、ギター、プログラミングのすべてを担う温詞(あつし)によるソロプロジェクト。
2019年9月にセンチミリメンタルとして1stシングル「キヅアト」でメジャーデビュー。以降、数々のアニメ主題歌/テーマソングを担当。そのほかにも様々なアーティストへの楽曲提供も行っている。
自身のアーティスト活動と共にプロデュースを手がけ、その才能に注目が集まる。
▽HP :
http://cenmilli.com/
▽X:
https://x.com/cenmilli
▽Instagram :
https://instagram.com/centimillimental

音楽体験 ※記事|提供:ジェイタメ

タイトルとURLをコピーしました